アブラコとの遭遇
土曜の朝の南防波堤は混んでいた。
無知丸出しの質問で、そんな基本的なことも知らんのか?という顔をされながらも、諸先輩のお話を聞いてまわる。みなさんカジカを狙っているらしい。
秋からは根魚(ねざかな)という種類の魚が釣れるそうだ。「根」とは海底の岩礁のことで、その周りに生息する魚が根魚だ。北海道ではアブラコ、ソイ、カジカなどが釣りの対象になるとのこと。鍋にしたカジカやソイの美味さは知っているので、もしそんな魚が自分に釣れたらどんなに嬉しいだろうと思った。
とにかくやってみようと、おっかなびっくり竿とリールをいじっていると、あまりにトンチンカンな扱いを見かねて、通りかかりのベテランの方が声をかけてくださった。リールの仕組み、各部の名称から、竿の持ち方、オモリと仕掛けの付け方、さらには投げ方まで親切に指導いただいた。おかげさまで、最初は何度やっても足元にドボンと落ちていたオモリが、とりあえず前方には飛ばせるようになった。とは言っても全然遠くには飛ばないのだけれど。
「これからうんと練習してね(笑)」
「はい、本当にありがとうございました」
「うん、でも、遠投できない人が中途半端に投げてみても釣れないかもね。魚って意外と足元にいたりするから、あなたの場合は、投げないでそのまま下を探ってみたほうがいいかもよ」
「そ、そうですか。やってみます」
ちょい投げセットの仕掛けにイソメを付け、言われたとおりに岸壁の真下に糸を垂らして底から少し巻き上げたところで様子を見ていると、ぐぐんと竿先が動いた。
「うぉ!」
どきどきしながらリールを巻き上げると、15~6cmくらいの魚がかかっていた。
「お、アブラコだね。お汁にしたりするとなかなか美味い魚だよ。おめでとう」
「あ、ありがとうございます」
釣りって、なんて面白いんだろう、と思った。心臓がドキドキするのを感じた。